しまった、という心の内を顔には出さず、努めて平静な顔をして私は言いました。
「転勤ではなく、今月末で退職することになった。いろいろ思うところがあった。あなたには大変お世話になったので、社内でもまだ非公表なんだが、今後の段取りもあるし、先に教えますね。ただし、絶対にあなただけに留めてください。」
担当者は、「もちろんです!」と言い帰っていきました。
「絶対に」そのような言葉に何の保証も無いのは、会社勤めをした人ならお分かりだと思います。
その気が利いた担当者は、早速私の送別会を開催しようと、メンバーを厳選して進めようとしたらしいです。自分にだけ打ち明けてくれたことを意気に感じてしまって。
その日の夕刻でした。上司に呼ばれた私は、よりによってその送別会のご招待メールが、私の上司宛に来たのを知るのでした。
もう退職前でしたから、こっぴどく叱られるということはありませんでしたが、憂いなく退職するつもりだった私の心の中に多少の引け目を残してしまいました。
もちろん、私が全面的に悪いのです。退職が間近かになり心のどこかに浮かれたものがあったのかもしれません。
最後の一手まで手を抜かない。これから退職する方は、十分に外堀を埋めて悔いの無いよう目的を成就されることをお祈りします。