社長から「お前はクビだ!」「明日から来なくていい!」と言い渡され、失職してしまうなどというのは、一昔前のドラマや漫画ではよくあるシーンでした。
しかし多くの方はご存じと思いますが、実際には即時解雇のハードルは高く、よほどのことが無いと解雇はできないのが現実です。逆に会社が訴えられ、「解雇無効」「社員の地位確認」の判決が出て解雇した時点に遡って給与を払わなくてはならないリスクがあります。お客さんやほかの社員にも悪印象です。
一方で即時解雇できるものに懲戒解雇というものがあります。これは就業規則に懲戒事由と対象罰を定め、これに該当すれば処罰として解雇を含むものです。
但し、就業規則に定める内容は合理的なものであるよう十分精査が必要ですし、運用上困らないものにしなくてはなりません。
例えば、漠然と「会社の物を横領した場合は懲戒解雇とする」とだけ定めた場合、「システムを操作して1億円を自分の預金口座に振り込んで」も「備品の消しゴムを1個持って帰って」も、どちらも解雇できてしまいます。後者は明らかに行き過ぎた処罰です。前者にも何か会社にとってのっぴきならない事情があったかもしれません。処分を決めるには、当事者から十分な事情聴取をした上で、様々な立場の方で構成された懲戒委員会での審議を経て慎重に行うべきです。また対象者が業務上の疾病や産前産後で休業中、あるいはその後30日間は、解雇制限がありますので、対象か否かの確認が必要です。
懲戒解雇が決定した場合は、懲戒委員会の議事録や人事処分通告書などを添えて労基署に「解雇予告の除外認定」を申請します。すなわち「解雇の30日以上前に解雇を予告する」かこれに代わる「解雇予告手当」を払う必要が無い対象者であることを認定してもらう訳です。
これはよく勘違いされますが、労基署が懲戒解雇事態の可否を認定するわけではありません。従って、「解雇予告の除外認定」をもらっても懲戒解雇に国のお墨付きが貰えたわけではないのです。訴えられるリスクは消えません。
何はともあれ、懲戒解雇にしてもこれだけのハードルがあります。
就業規則は専門家を交えてしっかりと検証し、また関係者間で運用上の基準を共有しておく必要があります。